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東京高等裁判所 昭和51年(う)1470号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月に処する。

原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入する。

原審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人熊川次男、同戸所仁治が連名で提出した控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のとおり判断する。

控訴趣意中事実誤認の主張について〈略〉

控訴趣意中量刑不当の主張について

論旨は、量刑不当の主張であつて、被告人には同種前科がなく、改悛の情がみられ、監督体制が整つているなど酌むべき点があるというのであり、また、被告人は本件により約六か月間勾留されていたのに、原判決がこの点を全く考慮せず、未決勾留日数を一日も本刑に算入しなかつたのは不当である、というのである。

そこで、記録を調査して検討してみると、被告人は、昭和五〇年三月一六日本件により逮捕され、同月一九日勾留され、同年九月一七日保釈により釈放されるまで約六か月間(一八六日)拘禁されていたこと、被告人は同年四月五日、本件により身柄拘束のまま原裁判所に起訴され、同裁判所は同月一〇日弁護人選任に関する通知書を発したところ、被告人において選任する旨の回答があり、次いで同月二二日弁護人選任届が提出されたので、公判期日を同年六月六日と指定告知し、同日第一回公判が開かれたこと、同公判において、被告人は公訴事実を認める旨の陳述をしたが、弁護人は陳述を留保し、検察官から取調請求のあつた証拠書類については、被告人の供述調書を含む全部について弁護人の同意があつたので、すべて採用されて証拠調がなされたが、捜査段階で本件犯行を否認していた被告人が、公判の冒頭で前記のように公訴事実を認める旨の陳述をしたのは、健康上の理由で認める気になつたのであつて、実際は犯行は行つていない旨右陳述をひるがえす供述をし、検察官の請求により、本件覚せい剤譲渡時の状況等について追加立証がなされることとなり、同日検察、弁護双方申請の証人二名が採用され、そのうち一名(本件覚せい剤の譲受人石川伸一)の取調べがなされたこと、第二回公判は同月二七日開かれ、双方申請の証人一名(秋田一幸)の取調べがなされたこと、第三回公判は同年七月一〇日開かれ、双方申請の証人一名(安藤正一)の取調べがなされたこと、第四回公判は同年八月二一日開かれ、第三者(栗原昭紀)の検察官調書一通中の同意部分の取調べがなされたこと、第五回公判は同月二九日開かれ、検察官申請の証人一名(栗原昭紀)を網走刑務所において取調べる旨の決定がなされたこと、前記の如く被告人が同年九月一七日保釈により釈放された後の同年一〇月一一日右刑務所において同人に対する証人尋問が行われたこと、第六回公判は同五一年一月二六日開かれ、右証人尋問調書と検察官申請の証拠書類三通及び証拠物三点(メモと覚せい剤二袋)の取調べが行われたこと、第七回公判は同年三月五日開かれ、弁護人申請の情況に関する証拠書類五通、証人一名の証拠調、検察官の論告、弁護人の弁論、被告人の最終陳述が行われて、同年三月二四日を判決宣告期日とする旨の指定告知がなされたこと、しかるに、同月一二日検察官から本件覚せい剤の譲渡時の状況及びそれに関連する状況の詳細を立証するためとの理由により弁論再開申請がなされたため弁論が再開され、同年五月一九日の第八回公判において検察官申請の証人二名(秋田一幸と石川伸一)の取調べが行われたこと、同年六月一六日第九回公判が開かれ、検察官の論告、弁護人の弁論、被告人の最終陳述、判決の宣告が行われたことなどの事実が認められる。

ところで、未決勾留日数の本刑への算入は刑の内容そのものではなく、その執行方法に関するものであるから、量刑そのものとはいえないが、少くとも刑の量定に準じて考えるべきものであつて、その不当は刑の量定不当として判断するのを相当とする(昭和三三年五月二〇日仙台高等裁判所判決、高裁判例集一一巻四号二二九頁参照)ところ、原審における右の審理経過に徴すると、審理の途中で保釈により釈放されたとはいえ、被告人が原審において勾留されていた日数のすべてが、原審の本件審理に必要な期間であつたとは解せられないから、原審が本件を処理するのに必要と認められる日数を控除したその余の日数は本刑に算入すべきものといわなければならない。してみれば、原判決が、被告人に対し、原審における約六か月間(一八六日)にわたる未決勾留日数中一日もこれを本刑に算入しなかつたのは不当であるから、その余の量刑事情等について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。この点の論旨は理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、次のとおり自判する。

原判決の確定した事実に、法令を適用すると、原判示所為は、覚せい剤取締法四一条の二の一項二号、一七条三項に該当するが、被告人には原判示の前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をした刑期の範囲内で、被告人に有利な諸事情をも考慮のうえ被告人を懲役一〇月に処し、同法二一条により原審における未決勾留日数中一二〇日を右刑に算入し、原審の訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文を適用して全部被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(小松正富 山崎宏八 佐野昭一)

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